名古屋高等裁判所 昭和27年(ネ)258号 判決
控訴代理人は、原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金参拾参万弐千五百円及び之に対する本件訴状送達の日の翌日から判決執行済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。名古屋市において発行せられる夕刊新東海、津市において発行せられる伊勢新聞各紙上に別紙<省略>記載の謝罪広告をなせ。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において、被控訴人の警察職員が本件罐詰を被害者に任意独断で仮還付しながら、その措置を未確定のまま放置して控訴人に損害を蒙らせたのは不作為による不法行為である。尚本件取引当時アンズジヤム罐詰に対する統制法令は形式的に存していたのに過ぎなく、当時既にその統制機関たる罐詰局は解散せられその統制は行われておらず、控訴会社においては統制違反の認識はなかつた。と附加陳述し、被控訴代理人においてこれを争う。と陳述した外は原判決における事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。(但し、原判決における請求の原因事実一の中、前記罐詰は「返還できぬから小島彦衛から貰え」と申請したので、とある部分の「申請した」は「申した」の誤記と認める。)
<立証省略>
三、理 由
控訴会社が昭和二十四年五、六月の頃その取引先の食料品商訴外小島彦衛からアンズジヤム百二十五罐を買受けたこと、右罐詰が盗品であつたこと、被告四日市市の警察職員川瀬新八等六名が名古屋市の警察職員一名と共に右小島彦衛の案内で同年六月九日頃トラツクで控訴会社に至り、右罐詰に関する窃盗、賍物故買罪等被疑事件の捜査をなし、控訴会社にあつたその売残罐詰六十八罐(尤も原審証人中尾清の証言によれば内一罐は大半消費せられ、内二罐は蓋の開かれていたことが認められる。)を右トラツクで四日市市警察署に持運んだこと、控訴会社が既に他に転売した右罐詰の内七罐がその翌日右警察署に送付提出せられたこと及び同警察署がその頃右罐詰合計七十五罐を被害者に仮還付したことはいづれも当事者間に争のないところである。
而して後顕各証拠に対比して措信しがたい甲第一、二号証の各一部の外には控訴人の提出援用にかかる全証拠によるも右各罐詰の提出につき、被控訴人の警察職員の不当の圧迫の加えられた事実はこれを認め難く、却つて成立に争のない乙第十二、第十三、第十五、第十六、第十七号証、第二十一号証の一、二、原審証人川瀬新八、同高橋進、同中尾清、同加納武の各証言を綜合すると、前叙四日市市警察署職員の控訴会社における捜査にあたり、控訴会社は、自身にも統制違反の嫌疑のかかつている情況の下ではあつたけれども、右各罐詰が盗品で三重県下の学童に対する配給物資であることを知りいたく恐縮し、且つ右小島彦衛からその損害は同人において補填するからこれを右警察署に提出して貰いたい。と懇請せられてこれを応諾し、直接又は右小島彦衛を通じて間接に右七十五罐の罐詰を同警察署に任意提出し、これを被害者に還付せられたき旨を申出でたので、同警察署は捜索、押収令状を用うることなく適法に刑事訴訟法第二百二十一条によつてこれを領置し、同法第二百二十二条、第百二十四条によつて被害者にこれを仮還付し、同法第三百四十七条によつてその還付の言渡のありたるものとせられた事実が認められるのでそれらの措置はいづれも正当で過誤はないものというべく、尚本件アンズジヤム罐詰の取引当時現実にその統制の行われていなかつた事実は控訴人の提出援用にかかる全証拠によるも、これを認めることはできなく、却つて前顕乙第十二、第十三、第十五号証によれば控訴会社は右罐詰が盗品であることには気がつかなかつたと言うているけれども、その買受が臨時物資需給調整法並に物価統制令に各違反し、所定の割当公文書と引換えることなく又公定の価格をも超過した所謂闇取引であることを承知してこれを敢行した事実が認められ、右は所謂物資の統制に違反した絶対無効の取引であることが明らかであつて、かかる取引は、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において又はその物と同種の物を販売する商人より善意で買受ける正常なる取引の安全を図ろうとする民法第百九十四条の保護の対象外にあることが明らかであるので、被控訴人の警察職員の前叙罐詰に関する各措置によつて不法に控訴会社の同法所定の代価弁償請求権を作為によりても不作為によりても侵害することはありえないところでつて、いづれの点よりするも爾余の点について判断をなすまでもなく控訴人の被控訴人に対すある本件罐詰の買受代金相当額の賠償請求は失当である。
次に控訴人の提出援用にかかる全証拠によるも昭和二十四年六月中旬名古屋市で発行せられた夕刊新東海、津市で発行せられた伊勢新聞に控訴会社が右罐詰窃盗事件の一味と見られるような記事の掲載せられた事実はこれを認めがたく、ただ成立に争のない甲第三、第四号証によれば同月十一日附右伊勢新聞及び同月十二日附夕刊新東海に夫れ夫れ控訴会社が右小島彦衛から本件罐詰を転買した旨の記事の掲載せられた事実を認め得るに止り、控訴人の提出援用にかかる全証拠によるも右記事の資料蒐集に関し被控訴人の警察職員等に故意又は過失のあつた事実を認めることができないので、爾余の点について判断をなすまでもなく控訴人の被控訴人に対する慰藉料の請求も亦失当である。
よつて控訴人の本訴請求はすべて理由がなく、従つてこれを棄却した原判決は結局相当で本件控訴は理由がないので民事訴訟法第四百八十四条第二項、第九十五条、第八十九条によつて主文のように判決する。
(裁判官 北野孝一 石谷三郎 小沢三朗)